第10章より
ゲレルトによれば、エルデシュは脈拍が危険なまでに落ち込む洞不全症候群を患っていた。ゲレルトはすぐにペースメーカーを埋め込む必要があるが、
それにはちょっとした外科的な処置がいるだけで、短ければ一日入院するだけでよいとエルデシュに伝えた。
ゲレルトはそのときの彼の表情を覚えている 「彼は私のことを忘れてしまったかのように、じっと私を見つめた」。そして、エルデシュは腕時計を見てこう返事をした。
「会議に出なければならないんだよ。それと夕方のパーティもだ。だから不可能だよ、絶対に不可能だ」。
さらに翌週はフィラデルフィアに行き、次はイスラエルに行くのだとエルデシュは付け加えた。「ハンガリーに戻ってからだったら、たぶん大丈夫だよ」。
「それはあまりに危険な賭けだ」とゲレルトは警告した。「また意識を失うかもしれないんだ。そして、今度はもう戻れないかもしれない」。
それを聞いてエルデシュはペースメーカーの埋め込みに同意した。ただし、すぐに処置を終え、その後でパーティに参加するというわがままな条件を提示することも忘れなかった。
「普通なら絶食しなければならないし、鎮静剤も飲まなければならない。心臓に電極をつけるのはそれからなんだ。
だからわれわれは少なくとも24時間は入院してもらっている」とゲレルトは説明する。
しかし、エルデシュにペースメーカーを埋め込むためには、彼の条件を飲んで、すぐに処置をし彼を解放するしかない。
性急に処置をするリスクよりもエルデシュがペースメーカーを使わないリスクのほうが大きいとゲレルトは判断し、
ゲレルトと何人かの医者がパーティに同席することを交換条件に、エルデシュのわがままを認めた。ただちにゲレルトは仲間に電話をかけて準備を開始した。
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