第6章より
エルデシュがファインホールという共用スペースにいたとき、彼は二人の数学者が位相幾何学の一部である次元論の問題について議論しているのを耳にした。
エルデシュはこの分野のことはほとんど何も知らない。彼らはヒルベルト空間における有理点集合の次元を決定するという未解決の問題と格闘していた。
読者はこの問題の意味を考える必要はない。エルデシュも理解できなかったのである。答えはゼロか無限大のどちらかだと考えられたが、
黒板の前に立つ二人の数学者、ヴィトルト・フレヴィッツとヘンリー・ウォルマン ともにこの分野では一流の専門家である はその先に進むことができずにいた。
「どんな問題なんだい?」とエルデシュが聞いた。闖入者を黙らせるためには説明するしかない。彼らはいらいらしながら早口に問題を説明した。
するとエルデシュは「次元って何?」と尋ね、見込みのない無知を暴露する。彼にはヒルベルト空間なるものが何かもはっきりしなかった。
ウォルマンがあわただしく次元の定義を説明すると、ありがたいことにエルデシュは立ち去った。
1時間後、エルデシュは問題の答えを持ってファインホールに戻ってきた。フレヴィッツとウォルマンは二つの点で驚嘆した。
一つはエルデシュが問題を解いたこと、もう一つは答えが1だったことである。1年後に発表されたエルデシュの論文は、ハルモシュによれば
「数ヶ月前には何も知らなかった分野にエルデシュがなした重要な貢献」だった。
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